新着記事|買いたいと思わせるのにテクニックはいらない(久禮亮太さん/フラヌール書店 店主)
「死んでも返品しない」と決めてかかる本があってもいい。全部の判断を早くして、全部丁寧にやるしかない。今日やらなくて困らないことは今日やらない――。書店員として培ってきた技術や判断、その背景にある考え方を惜しみなく語っていただきました。書店員はもちろん、出版社や取次で働く方にも多くの気づきがある内容です。ぜひご覧ください。
編集の舞台裏
今回の記事は、前後編を合わせると50,000字超。これまでで最も長いインタビューの一つとなりました。書店員、コンサルタント、そしてフラヌール書店店主として積み重ねてこられた経験はあまりにも幅広く、どこを切り取っても記事になるようなお話ばかりでした。
編集をしながら何度も感じたのは、「センス」と呼ばれている仕事にもそれぞれ理由があるということでした。本が売れる理由も、棚づくりも、人とのコミュニケーションも、久禮さんは何を見て、何を考え、どう判断したのかを丁寧に語ってくださいました。
だからこそ、「買いたいと思わせるのにテクニックはいらない」という言葉には重みがあります。派手な販促や目を引く演出ではなく、ガラスを拭くこと、棚を整えること、お客さんが気持ちよく本と向き合える環境をつくること。その積み重ねが、結果として「この店で本を買いたい」という気持ちにつながっていく。読み進めるほどにこの言葉の意味が少しずつ立ち上がってくるインタビューでした。
もう一つ印象的だったのは、久禮さんが繰り返し「言葉にすること」の大切さを語っていたことです。経験や勘だけで終わらせず、なぜその判断をしたのか、何を見てそう考えたのかを言語化する。その積み重ねが、誰かに受け継がれる技術になっていくのだと思います。
50,000字超という長さになったのも、判断や思考の過程をできるだけ削らずに残したかったからです。本の世界にはまだ言葉になっていない仕事がたくさんあります。今回の記事が、その豊かさを感じていただくきっかけになればうれしく思います。
PFP活動報告
韓国から帰国した翌日、タトル・モリの玉置さんとインタビュー前の打ち合わせを行いました。版権エージェントという仕事には以前から興味がありましたが、お話を伺うと、海外の本を日本へ紹介するだけではない、仕事の幅広さに驚かされることばかりでした。出版の世界には、まだまだ知らない仕事がたくさんあります。打ち合わせだけでこれだけおもしろいのですから、本番のインタビューへの期待も高まるばかりです。打ち合わせの際にはどら焼きまでいただきました。
もう一つ、韓国で新しい企画が動きはじめました。韓日出版学術会議で知り合った出版人と、往復書簡という形で日韓の出版事情を掘り下げていきます。互いに質問を重ねながら、それぞれの出版現場の実情や考え方を記録していく試みです。まずはどんな質問を投げかければよいのか、頭を悩ませています。しかし、その時間も含めて楽しみですね。韓国語の勉強も少しずつはじめました。今のところ、レトルトの参鶏湯の調理方法は読めるようになり、無事につくれるようになりました。レトルトと水400mlを鍋に入れ、15~20分煮込む、と書いてありました。出版用語を読めるようにならねばなりません。
Book in Action!!(2)
前回に続いて訪韓日記です。
2日目は韓日出版学術会議です。会場はVisang Educationという、韓国の小・中・高校向け教科書・学習参考書を手がける大手出版社でした。大会議室の近くには、韓国の教科書の歴史を紹介する展示がありました。ゆっくり拝見したかったのですが、時間もなく残念でした。
今回の発表は5つのテーマに分かれ、日本側・韓国側からそれぞれ1名ずつ報告する形式でした。PFPは第4テーマ「ローカル出版とグローバル出版」で、日本側の発表を担当しました。国際的な学術会議で発表するのは初めてですし、国内でもワークショップや公開インタビューの経験はあるものの、学会での単独発表自体が初めて。さすがに緊張しました。とはいえ、緊張そのものをなくすことはできませんので、多少あがっても最後まで発表できるようにできる限り準備してきました。
20分の発表で、最初の5分くらいはやはり硬さがありました。しかし、会場の雰囲気がとてもよく、頷きながら聞いてくださる方や、熱心にメモを取ってくださる方の姿が目に入り、次第に緊張もほぐれていきました。まぁ、そのメモを取ってくださっていたのが韓国出版学会の会長と副会長だったんですがね。ありがたい限りです。
今回のPFPの報告は私を含めて3名で取り組み、発表は私が担当しました。発表後には3人で並んで前に出てご挨拶できたのもうれしいご配慮でした。また、同じテーマで発表された韓国側の先生から、「とても興味深いので今度ゆっくり話を聞かせてほしい」「紹介したい出版人がいるので、ぜひインタビューしてほしい」と声をかけていただきました。うれしかったですね。PFPのおもしろさは、日本だけのものではなかったということ。現場に蓄積された知恵や技術を記録し、次の世代へ残したいという思いは、海を越えて共有できるのだと実感しました。
今回の学術会議を通じて、PFPは日本だけで完結する活動ではないことを強く感じました。むしろ、出版という営みがある限り、国や制度が違っても、記録したい現場は必ずあります。次は日本から韓国へ学びに行くのではなく、お互いの現場を記録し合う関係を築いていきたいと思います。

編集後記
今回掲載した久禮さんのインタビューは、PFPではこれまでで最長の記事となりました。読みやすさを保ちながら、現場で交わされた言葉をできるだけそのまま残したい。そのバランスに悩みながら、何度も原稿を見直しました。
現在は、8月下旬公開予定の中央公論新社・太田和徳さんのインタビューを鋭意編集中です。こちらも現場ならではのお話がたくさん詰まっています。どうぞお楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
出版フィールドワークプロジェクト(PFP)は、出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館など、出版に携わる方々へのインタビューを通して、現場に蓄積された知恵や技術、そして経験を記録・公開するプロジェクトです。
このメルマガでは、新着記事に加え、編集の舞台裏や活動報告、イベント情報、出版について考えたことなどをお届けしていきます。
出版の現場に息づく実践知を、次の世代へ手渡していく。この活動にご共感いただけましたら、ぜひ引き続きお付き合いください。また、おもしろいと感じていただけましたら、出版に関心のあるご友人やお知り合いにもご紹介いただけますと幸いです。
それでは、次号でまたお会いしましょう。
すでに登録済みの方は こちら
