新着記事|本のブリコラージュ(久禮亮太さん/フラヌール書店 店主)
今回公開したのは、フラヌール書店・久禮亮太さんインタビュー前編です。
「フラヌール書店とはどんな書店だと思いますか?」
久禮さんは「あゆみBOOKS早稲田店の続きをやっている側面がある」と語りはじめました。棚の配置にはどんな思想があるのか。なぜ入口に芸術書を置き、人文書へと続く構成なのか。そして、一冊の本をどこに置くのかという判断には、どのような考えが込められているのか。
普段は何気なく眺めている書店の棚が、実は無数の判断の積み重ねでできていることが見えてきます。本を「選ぶ」現場ではなく、「本が選ばれる場」をどうつくるのか。そんな久禮さんの思考に触れられる前編です。
編集の舞台裏
今回のインタビューで印象的だったのは、久禮さんが質問に対して、とても時間をかけて考えながら話してくださったことでした。
たとえば「なぜ入口に芸術書を置くのですか」という問いも、単純に「目立つから」という答えでは終わりません。あゆみBOOKS早稲田店での経験、店の広さ、通りから見える景色、お客さんの導線、人文書とのつながり……。一つの棚の話をしているはずなのに、次々と別の話題が結びつき、一冊の本が置かれる理由が少しずつ立ち上がっていく。その過程を聞いていて「棚づくりとは思考の積み重ねなのだ」とあらためて感じました。
実は、このインタビューはフラヌール書店の棚を見ながら質問をしています。棚を前に「この本はなぜここなのですか」「こちらの本との違いは何ですか」と、一冊ずつ尋ねていく。すると、目からウロコな答えが何度も返ってきました。
私たちはできるだけ抽象的な理念ではなく、「なぜ、この一冊なのか」「なぜ、この場所なのか」という具体から考えることを大切にしています。現場の知恵は案外そういう細部に宿っているからです。
今回の記事も、完成した原稿だけを見ると自然な会話に見えるかもしれません。しかし実際には、棚の前で立ち止まり、何度も本を手に取りながら積み重ねた数時間の対話があります。その時間ごと残せたことが、このインタビューの一番の収穫だったように思います。
PFP活動報告
ここでは、ここ最近のPFPの活動をご報告します。
先日、未知谷・飯島徹社長へのインタビューを実施しました。創業以来刊行を重ね、まもなく刊行点数1,000点に到達する未知谷。その歩みを支えてきたのは、「紙の本でできることの最大値を目指す」という一貫した姿勢にあるように感じました。造本や紙に関する知識も驚くほど深く、企画から編集、製作までを見渡しながら一冊をつくり上げる飯島さんは、分業化が進んだ現在では数少ない編集者の一人です。公開まで今しばらくお待ちください。
そして、今月最大の出来事は韓国で開催された韓日出版学術会議への参加です。PFPの活動について発表を行ったほか、坡州出版都市をはじめとする出版関連施設や書店を訪問し、多くの出版人と交流することができました。今回の渡韓をきっかけに、韓国の出版人へのインタビュー企画や、現地との新たな連携についても話が進み始めています。
PFPは少しずつ活動の幅を広げています。これからも日本各地、そして海外の出版人を訪ね、その現場に蓄積された実践知をひとつひとつ記録していきます。
Book in Action!!(1)
こちらでは、代表の榎本によるエッセイを掲載します。PFPの活動や出版について感じたこと、考えたことをお届けします。なお、回によっては他のメンバーが執筆することもあります。
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朝4時に起き、5時前の中央線に乗り込む。吉祥寺から羽田空港までは空港行きのバス。順調なら6時過ぎには空港へ着き、余裕をもって搭乗できる――そんな計画でした。ところが、まさかの朝一番の中央線が車両点検で運転見合わせ。30分遅れでようやく動き出し、当然バスも乗り遅れ、空港に着いたのも30分遅れでした。さすがに少し焦りました。
もっとも、旅にはトラブルがつきものです。韓国に着いてからも、WOWPASS(韓国のプリペイドカード)を名刺入れごとなくして肩を落とした方、電車に乗り遅れて一人取り残されてしまった方、飛行機の遅延で晩餐会への到着が遅れてしまった方もいました。大小さまざまなハプニングがありましたが、振り返ってみれば、それも楽しい旅の思い出になっています。不思議なものです。もっとも、そう思えるのは結局みんな無事だったからなのでしょう。
一日目に訪れたのは坡州出版都市です。訪問した時間帯もあったのでしょうか、私はもっとトラックが行き交い、人の往来も絶えない、神保町のような活気ある街を想像していました。しかし実際は、どちらかといえばところざわサクラタウンを思わせる、静かで落ち着いた空気が流れていました。
北朝鮮との国境に近い街でありながら、その緊張感を意識する場面はほとんどありません。豊かな緑のなかに個性的な出版社の建物や印刷・製本所が点在し、中心施設「知恵の森」には寄贈された本が天井まで届く書棚にぎっしりと並んでいました。日本の本も数多く並び、その一冊一冊が国境を越えてここまで届いていることに、出版の仕事の豊かさを感じました。
街全体を歩いていて感じたのは、「よい本は、よい環境から生まれる」という思想です。出版社だけではなく、印刷所や製本所、書店、図書館まで含めて出版文化を育てようという意思が街の至るところから伝わってきました。出版の現場を記録するPFPにとっても、多くのことを考えさせられる一日となりました。
次回の後編では、二日目に開催された韓日出版学術会議の様子をお届けします。


編集後記
創刊号を最後までお読みいただき、ありがとうございました。これからも新着記事だけでなく、取材の舞台裏やPFPの活動、出版について考えたことなどをお届けしていきます。次号では、フラヌール書店・久禮亮太さんのインタビュー後編「買いたいと思わせるのにテクニックはいらない」を掲載予定です。ぜひ楽しみにお待ちください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
出版フィールドワークプロジェクト(PFP)は、出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館など、出版に携わる方々へのインタビューを通して、現場に蓄積された知恵や技術、そして経験を記録・公開するプロジェクトです。
このメルマガでは、新着記事に加え、編集の舞台裏や活動報告、イベント情報、出版について考えたことなどをお届けしていきます。
出版の現場に息づく実践知を、次の世代へ手渡していく。この活動にご共感いただけましたら、ぜひ引き続きお付き合いください。また、おもしろいと感じていただけましたら、出版に関心のあるご友人やお知り合いにもご紹介いただけますと幸いです。
それでは、次号でまたお会いしましょう。
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