ローカルな現場から出版を捉えなおす——出版フィールドワークプロジェクトの実践
*前回の配信記事について、訂正とお詫び*
2026/8/5に配信した「新着記事|買いたいと思わせるのにテクニックはいらない(久禮亮太さん/フラヌール書店 店主)」について、画像のリンク先に誤りがありました(前半記事のリンクが入ってしまっていました)。訂正してお詫びいたします。
<誤>
https://note.com/pub_field_prj/n/n2811e59d5d39(本のブリコラージュ|フラヌール書店 店主 久禮亮太さん(出版フィールドワークプロジェクト vol.10))
<正>
https://note.com/pub_field_prj/n/n22877eb93fd3(買いたいと思わせるのにテクニックはいらない|フラヌール書店 店主 久禮亮太さん(出版フィールドワークプロジェクト vol.10))
新着記事
今回はいつものインタビュー記事ではありません。2026年7月25日に韓国で開催された韓日出版学術会議で発表した内容を、note掲載にあたり全面的に書き直した記事を公開しました。
PFPを立ち上げてから一年半、多くの出版人へのインタビューを続けるなかで、私たち自身も「出版とは何か」「仕事とは何か」を考え続けてきました。今回の記事ではその思考の過程と現時点でのPFPの到達点をまとめています。
普段のインタビュー記事ではなかなかお伝えできない、PFPそのものについて書いた記事です。すでにインタビューを読んでくださっている方にも、私たちがこの活動を続けている理由を知っていただくきっかけになれば幸いです。
編集の舞台裏
今回の記事を書きながら、PFPの考え方も一年半でずいぶん変わったことを改めて感じました。
いま思えば、始まりはずいぶん気楽なものでした。若手出版人の素朴な悩みをきっかけに、「とにかく出版人のおもしろい話を聞こう」「その語りを記録として残そう」。それくらいの気持ちで始めたのです。
立ち上げ当初は、「みんながみんな、自分の仕事を分析して言葉にできるわけじゃないよ」と言われたこともありました。たしかに、一人で自分の仕事を振り返り、それを言葉にすることは簡単ではありません。でも、真剣に仕事と向き合ってきた人には、その人にしか語れないことがある。だからこそ、インタビューという対話を通して一緒に仕事をたどっていけば、その人だけの言葉がきっと現れる。そう考えてきました。
一年半、出版人へのインタビューを重ねてきて、この取り組みは間違っていなかったと感じています。そして、私たちの関心も変わりました。記録したいのは「実践知」だけではありません。なぜその判断をしたのか。何を大切にしてきたのか。その人が積み重ねてきた仕事そのものです。
今回の記事は韓国での発表内容を書き直すだけでなく、この一年半でPFP自身がたどり着いた現在地を整理する機会にもなりました。
PFP活動報告
出版フィールドワークプロジェクト(PFP)が、サントリー文化財団の2026年度研究助成「学問の未来を拓く」に採択されました。
この助成を活用し、全国各地で出版に携わる方々へのフィールドワークを進め、出版社・書店・図書館・取次・印刷所など、それぞれの現場に息づく実践知を記録・発信していきます。ご支援いただいた皆さま、本当にありがとうございます。
現在は、この助成を活用した全国各地へのフィールドワークの準備を進めています。メンバーから「ここへ行きたい」という希望を募り、どの地域を訪問するか相談しているところです。
PFPは東京の出版社に勤めるメンバーが多く、活動もどうしても首都圏に偏りがちです。しかし、東京にいるだけでは見えてこない出版の仕事があります。その土地だからこそ育まれてきた出版文化や、地域に根ざした実践を記録するため、これからは積極的に地方へ足を運んでいきたいと考えています。
また、来月は実家への帰省に合わせて、三重県尾鷲市にある川崎尚古堂さんを訪問する予定です。140年続く老舗書店で、地域の教育や文化とも深く関わってきたお店です。現在はインタビューに向けて準備を進めています。
全国各地でどのような出版の仕事に出会えるのか、私たち自身も楽しみにしています。現場で見聞きしたことは、今後もインタビューやレポートを通してお届けしていきます。
そしてもうひとつ、先週末は浅草ブックマーケットに版元として参加していました。PFP代表・榎本も寄稿している『おてあげ』を販売しました。完売御礼!!
会場はとにかくすごい熱気。たくさんの出版社が集まり、本を売り、読者と話し、あちこちで新しい出会いが生まれています。本をつくる人、売る人、読む人が同じ場所に集まり、そこからまた何かが始まっていく。これが連鎖!
Book in Action!!(3)
訪韓日記3日目です。訪韓日記は今回で終わりです。さみしい。
3日目は書店を回りました。中古書店のアラジン鐘路店、新刊書店の教保文庫光化門店、永豊文庫鐘路店、そして独立系書店のTHANKS BOOKSへ伺いました。私は人文系の出版社で働いているのでどうしても人文書を見てしまいます。思ったのは、日本のような人文書の括りではないということ。大型書店の教保文庫へ行くと「人文」の表示を見つけました。ここにあるのは「哲学」「倫理学」「心理」でした。お店にもよるのかもしれませんが、日本における「思想」は哲学に含まれているのかと思いきや、文芸や社会問題に置いてあるようです。人文書の担当の方と翻訳アプリを使って会話をしましたが、歴史や教育も社会科学の棚にあるようでした。
ちなみに、いま韓国で流行っている哲学書は何かと聞くと、ショーペンハウアーだと即答してくれました。特にどれが売れているか聞くと、ショーペンハウアーの言葉を書き写す本だと言います。おもわず購入してしまいました。私はいまショーペンハウアーをハングルで書いています。一体私の身体にどういう影響を及ぼすのか、まだわかりません。そのヒットを受けてニーチェの言葉を書き写す本も刊行され、これもそこそこ売れているようです。
韓国の哲学者の本はないんですか、と聞くと、あるけれどそんなに売れないということでした。哲学書はあまり売れず、学会などでの販売がメインだそうです。日本の『思想』や『現代思想』のような雑誌はないとも聞きましたが、THANKS BOOKSで『New Philosopher KOREA』という雑誌を見つけました。タイトルだけで思わず購入してしまいました。
特集は「知恵」。目次を見ると、哲学論文が並ぶのではなく、インタビュー、エッセイ、アート、書評など、さまざまな切り口から一つのテーマを考える構成になっています。誌面も写真やイラストを多く取り入れ、いわゆる学術誌という雰囲気ではありません。日本の『現代思想』のように思想家や理論を深く読み解くというより、「哲学をどう日常へ持ち込むか」を考えるカルチャー誌という印象を受けました。
まだ読み始めたばかりなので断言はできませんが、韓国では「人文書」という棚で哲学に出会うというよりも、こうした雑誌を通じて哲学を身近なテーマとして暮らしの中で考える文化があるのかもしれません。帰国してからじっくり読んで、その答えを探してみたいと思っています。(榎)

ショーペンハウアーの言葉を書き写す本

『New Philosopher KOREA』

石橋毅史『まっ直ぐに本を売る』の韓国語版
編集後記
今回のニュースレターはいつもとは少し趣向を変えて、PFPの考え方そのものをお届けしました。次号からは、通常どおりインタビュー記事に戻ります。お届けするのは、中央公論新社・太田和徳さん編です。「やっぱりいいものは記憶に残る」。長年積み重ねた読書や経験、人との出会いが、一冊の企画へと結びついていく過程が語られます。どうぞお楽しみに。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
出版フィールドワークプロジェクト(PFP)は、出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館など、出版に携わる方々へのインタビューを通して、現場に蓄積された知恵や技術、そして経験を記録・公開するプロジェクトです。
このメルマガでは、新着記事に加え、編集の舞台裏や活動報告、イベント情報、出版について考えたことなどをお届けしていきます。
出版の現場に息づく仕事や判断を、次の世代へ手渡していく。この活動にご共感いただけましたら、ぜひ引き続きお付き合いください。また、おもしろいと感じていただけましたら、出版に関心のあるご友人やお知り合いにもご紹介いただけますと幸いです。
それでは、次号でまたお会いしましょう。
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