読んで、考えて、絞り出す(太田和徳さん/中央公論新社)

中央公論新社・太田和徳さんのインタビュー後編「読んで、考えて、絞り出す」を公開しました。
出版フィールドワークプロジェクト 2026.08.28
誰でも

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中央公論新社・太田和徳さんのインタビュー後編「読んで、考えて、絞り出す」を公開しました。『中央公論』、中公新書、中公文庫と、それぞれ異なる媒体で編集に携わってきた太田さん。図書館や古本屋へ足を運び、企画の種を探し、過去に読んだ本や編集の経験を結びつけながら、新たな一冊を形にしていきます。

「企画って、思いつくんじゃなくて、考え出す、絞り出すものだと思います」。

企画はどのように生まれ、本へと育っていくのか。編集者が一冊を生み出すまでの具体的な仕事に迫る後編です。

編集の舞台裏

前編では太田さんのお話から「読む」ということについて考えました。後編では、その「読む」がどのように企画へ変わっていくのかが、より具体的に見えてきます。

印象的なのは、「企画って、思いつくんじゃなくて、考え出す、絞り出すものだと思います」という言葉です。新書編集部では、自分の得意分野だけでなく、さまざまなジャンルに目を配る。図書館や古本屋へ足を運ぶ。そこで見つけたものを覚えておく。過去に読んだ本や仕事の経験が、何年も経って別の企画につながることもあります。

企画は突然何もないところから生まれるわけではありません。読む。探す。考える。覚えておく。そして、組み合わせる。太田さんの具体的な仕事を追いながら、編集者が企画を生み出すまでの過程が見えてくる後編です。

PFP活動報告

今週もインタビューや記事づくりがあちこちで進んでいます。

未知谷・飯島徹さんのインタビューは、いよいよライティングが始まりました。飯島さんのお話はとにかく自由自在。話されたことを大切にしながら、どうすれば読者が追える記事になるのか。なかなか骨の折れる作業が始まっています。

カライモブックスのお2人、元筑摩書房の菊池明郎さんのインタビュー記事も完成に近づき、公開の準備を進めています。菊池さんは春季研究発表会のワークショップをもとにした記事です。当日ご参加のみなさまもお楽しみに!

そして今週は、2本のインタビューを行いました。前号で質問づくりの様子をお伝えした装丁家・松田行正さんには、本をどのように読み、そこから何を拾い上げ、装丁へと落とし込んでいくのかを伺いました。もうひとつは、元弘栄堂書店・岡田浩徳さんへのインタビューです。弘栄堂書店がなくなってから、間もなく18年。すでになくなった書店について、その現場で働いていた方から記録するのは今回が初めてです。どのような店で、そこでどのように本が売られていたのか。こちらも大切な記録になりそうです。

韓日出版学術会議で一緒に韓国へ行ったみなさんとの打ち上げもありました。韓国ではずっと一緒にいたはずなのに、それぞれの発表や視察もあり、意外とゆっくり話す時間がありませんでした。ようやく再会、落ち着いていろいろ話すことができました。韓国のり食べまくり。

今週もPFPはあちこちで動いています。

Book in Action!!(5)

「読まねばならぬ、みずからを見失うために」

ある人からPFP宛に送られた言葉です。書店の店頭の色紙でも見かけます。妙な言葉だと思います。本を読む理由について「自分を見つけるため」といった言葉なら、わりとよく聞きます。自分らしく生きるため、自分のことをもっとよく知るため、知らなかった世界を知るため。読むことには何かを獲得するイメージがつきまといます。

ところが、「みずからを見失うために」ときた。せっかく本を読むのに、自分を見失ってしまう。この言葉がどうも頭から離れません。考えてみれば、本を読んでいて本当におもしろいのは、自分がそれまで当たり前だと思っていたことが、当たり前ではなくなるときなのかもしれません。「なるほど、よくわかった!」と本を閉じるよりも、「あれ、どういうことだろう?」と本を閉じる。読む前には確かにあったはずの自分の考えが、どこにあるのかわからなくなっている。それは何かを失ったというより、何かが動いたということなのだと思います。

この一行を眺めているうちに、PFPのことを考えました。なんでもPFPに繋げて理論化ばっかしている、と副リーダーに東京堂書店で叱られました。でも反抗して考えます。副リーダーは40cm髪を切ったと言っていました。PFPは出版の現場で働いてきた人たちに話を聞く活動をしています。出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館。出版にかかわるさまざまな場所へ行き、そこで働いてきた人に、「どうしてそうしたのですか」「そのとき何が起きていたのですか」と聞きます。

PFPを始めたころ、私はこの活動を出版について「知る」ためのものだと思っていました。知らないことがあれば、知っている人に聞く。かつて出版の現場で何が起きていたのかを記録する。そこに蓄積されてきた経験や知恵を次の世代へ渡していく。いまでも重要な目的だと思っています。

けれど、話を聞けば聞くほど、少し困ったことが起きます。出版がわからなくなるのです。ある書店員に話を聞けば、それまで考えていた「本を売る」という仕事の像が崩れます。編集者に話を聞けば、「本をつくる」という言葉の意味が変わります。一人に聞いて、ひとつわかる。ところが、そのひとつがわかったせいで、それまでわかったつもりだった10のことが、わからなくなります。

PFPを始める前より、私は出版についてずいぶん詳しくなったはずです。それなのに、出版とは何かと聞かれたら、以前より答えにくくなっています。これは困ったことです。おてあげ。けれど、たぶん、悪いことではありません。本をつくる人、運ぶ人がいて、並べる人がいます。棚から本を抜く人がいて、返品する人がいます。古い本を残そうとする人がいて、それを誰かに手渡す人がいます。それぞれが、それぞれの場所で何かをしています。

PFPで話を聞くということは「出版とは何か」という答えに近づいていくことだと思っていました。もしかすると、逆なのかもしれません。「出版とはこういうものだ」と自分が勝手につくっていた輪郭を、ひとつずつ壊していくことなのかもしれません。わからないから聞く。聞けばわかる。でも、わかったことでまたわからなくなる。そうしてまた別の人に会いに行きます。

この繰り返しを、私たちはフィールドワークと呼んでいるのかもしれません。だとすれば、PFPが残しているインタビューも「出版とはこういうものだった」と後世に教えるためだけの資料ではないのでしょう。いつかこれを読む誰かが、自分の知っている「出版」を疑うための資料でもあってほしいと思います。こんなやり方があったのか。そんな人がいたのか。そうやって、読む前にはあったはずの「出版」が、少しわからなくなる。そのとき初めて、記録された言葉は過去の保存物ではなく、いまを揺さぶるものになるのだと思います。

本のなかにあった言葉が、本の外へ出てきて、誰かが持っていたものの見方を少し動かす。あの一行に動かされて、私もこんなところまで考えてしまいました。

まさにBook in Action!!

PFPせねばならぬ、出版を見失うために(榎)

編集後記

第5号も最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回は、中央公論新社・太田和徳さんのインタビュー後編をお届けしました。次号は、熊本県水俣市のカライモブックスへ。5月にPFPのメンバーで水俣まで伺い、店主のお二人にお話を聞いてきました。水俣という土地で、どのように本屋を営んできたのか。本屋を始めるまでの道のりから、日々の店づくり、地域と本屋の関係まで、じっくりとお話を伺っています。次号もお楽しみに!!

***

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

出版フィールドワークプロジェクト(PFP)は、出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館など、出版に携わる方々へのインタビューを通して、現場に蓄積された知恵や技術、そして経験を記録・公開するプロジェクトです。

このメルマガでは、新着記事に加え、編集の舞台裏や活動報告、イベント情報、出版について考えたことなどをお届けしていきます。

出版の現場に息づく仕事や判断を、次の世代へ手渡していく。この活動にご共感いただけましたら、ぜひ引き続きお付き合いください。また、おもしろいと感じていただけましたら、出版に関心のあるご友人やお知り合いにもご紹介いただけますと幸いです。

それでは、次号でまたお会いしましょう。

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