数字を知ったうえで、可能性に賭ける(黒田拓也さん/勁草書房/前・東京大学出版会専務理事)
東京大学出版会に編集者として入り、経済学を担当。その後、販売部長、営業局長、専務理事を務めた黒田さん。研究者のもとへ足を運んで企画をつくった編集時代から、学術書の採算、取次との関係、電子書籍への取り組みまで、出版の現場を縦横に語っていただきました。
数字を知ることは、企画を小さくすることではない。数字を冷静に見ながら、それでも「おもしろそう」に賭ける。編集・営業・経営を経験した黒田さんだからこその話が詰まっています。
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https://note.com/pub_field_prj/n/n16a5f2067343
編集の舞台裏
黒田さんのインタビューを編集していて、おもしろかったのは、「編集」の話をしていたはずなのに、いつの間にか営業や経営の話になり、そしてまた編集の話に戻ってくることでした。
入社したばかりのころは、「編集者たるもの、平日の昼間に社内にいたらおかしい」と言われ、週に3、4回は研究室へ。先生が何を書いているのかを調べ、本を読み、話を聞き、おもしろい話が出てきたら忘れずに次の企画につなげていく。そんな編集者としての仕事から話は始まります。
ところが販売部長になると、見えるものが変わります。売上だけではなく、在庫や倉庫の費用、取次との関係、1冊の本がどれだけの粗利を生むのか。専務理事になれば、さらに会社全体の数字を見ることになる。では、数字を知れば知るほど、企画は堅く、小さくなっていくのか。
黒田さんの話を聞いていると、むしろ逆です。過去の数字をきちんと見る。それでも、おもしろいと思った企画には可能性がある。2,500部の想定だった渡辺浩さんの『日本政治思想史』を4,000部にした話。「東大出版会らしくない」と反対された『山口晃作品集』を、「じゃあ、東大出版会らしさって何だ」と押した話。
「数字を知ったうえで、可能性に賭ける」。今回のタイトルは、インタビューの最後に出てきた言葉から取りました。でも編集を終えてみると、これは最後だけの話ではなく、黒田さんが編集、営業、経営と立場を変えながら経験してきたことを、一本につなぐ言葉だったように思います。
PFP活動報告
11月8日(日)、有隣堂アトレ恵比寿店で「PFPマルシェ――Book in Action!!」を開催します。
これまでPFPでは、本をつくり、届ける人たちのもとへ足を運び、話を聞いてきました。今回は少し向きを変えて、PFPのほうから書店の店頭へ出ていきます。
会場では、「企画する」「つくる」「本の姿にする」「ものにする」「届ける」という、本が読者に届くまでの仕事をテーマにした展示やミニトークを行うほか、PFPがこれまでのフィールドワークで出会ってきた本を並べます。また、ご来場のみなさんへの短いインタビューや、出版をめぐる「問い」を集める試みも行います。
一冊の本は、たくさんの人の手を通って読者に届きます。そして、読者の手に渡ったところで終わるわけでもありません。今回は、いつもインタビューする側のPFPも店頭に立ち、本をめぐってみなさんと出会う一日にしたいと思っています。
開催は11月8日(日)10時から18時まで。有隣堂アトレ恵比寿店・店内特設会場にて、参加無料・申込不要です。どなたでもご参加いただけます。見るだけでも、途中からの参加でも大丈夫です。ぜひ気軽にお立ち寄りください。
日時:2026年11月8日(日)10:00~18:00
会場:有隣堂アトレ恵比寿店 店内特設会場
参加:無料・申込不要
▼詳細はこちらから
https://www.yurindo.co.jp/topics/40231/

Book in Action!!(10)
8月の「Book in Action!!」でこんなことを書きました。「本は行為の集積であり、出版は行為の連鎖です」。本をつくる。並べる。薦める。売る。買う。読む。話す。そのひとつひとつの行為が次の行為を生み、その連鎖のなかから「出版」が立ち上がってくるのではないか。浅草で2日間、本を売りながら考えたことでした。
あれから2ヶ月。そのときの気づきが、少しずつ次の行為につながっています。11月8日に有隣堂アトレ恵比寿店で開催する「PFPマルシェ――Book in Action!!」もそのひとつです。
これまで私たちは、出版社、書店、印刷・製本、図書館など、本をつくり、届ける現場へ出かけていき、「あなたはどうやって仕事をしてきたのですか」と聞いてきました。出版にかかわるさまざまな人の具体的な仕事を聞き、記録することがPFPのフィールドワークです。でも、本をめぐるステークホルダーは、つくる人、届ける人だけではありません。読者もまた、その一員なのではないでしょうか。本を手に取る。買う。読む。考える。誰かに話す。薦める。読者の行為も、本を動かし、次の行為を生み出しています。だとすれば、PFPが話を聞く相手に、読者が入っていてもいいはずです。
そこで今回のマルシェでは、ご来場いただいたみなさんにも短いインタビューをします。なぜその本を手に取ったのか。どんな本を読んできたのか。本をどこで知り、どこで買い、誰かに薦めるのか。そんな読者の具体的な行為を聞いてみたいと思っています。
もちろん、何が聞けるのかはまだわかりません。誰かとの会話から、また別の問いが生まれるかもしれない。そこで聞いたことが、次のフィールドワークにつながるかもしれない。浅草では、目の前で起きている行為の連鎖を見ていました。今度は、その連鎖のなかにいる読者にも話を聞いてみます。つくる人、届ける人、そして読む人へ。PFPのフィールドワークを、もう少しひらいてみます。(榎)
編集後記
第10号も最後までお読みいただき、ありがとうございました。今回は、勁草書房/前・東京大学出版会専務理事・黒田拓也さんのインタビュー前編「数字を知ったうえで、可能性に賭ける」をお届けしました。次号は、黒田さんのインタビュー後編「人に会えば、本が生まれる」をお届けします。40代で専務理事となり、出版会の経営を担った時代から、再び編集の現場に戻った現在まで。人に会い、話を聞き、偶然の出会いから本が生まれていくことについて伺います。どうぞお楽しみに。
出版フィールドワークプロジェクト(PFP)は、出版社、書店、取次、印刷所、製本所、図書館など、出版に携わる方々へのインタビューを通して、現場に蓄積された知恵や技術、そして経験を記録・公開するプロジェクトです。
このメルマガでは、新着記事に加え、編集の舞台裏や活動報告、イベント情報、出版について考えたことなどをお届けしていきます。
出版の現場に息づく仕事や判断を、次の世代へ手渡していく。この活動にご共感いただけましたら、ぜひ引き続きお付き合いください。また、おもしろいと感じていただけましたら、出版に関心のあるご友人やお知り合いにもご紹介いただけますと幸いです。
それでは、次号でまたお会いしましょう。
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